年次シンポジウム2025 【第2部】「舞台芸術の未来をつくる4つの種~EPAD・「日本の演劇」未来プロジェクト・SOIL・SEEDが描く連携のかたち~」

「JPASN年次シンポジウム2025」が2026年1月30日に東京・銀座松竹スクエアで開催されました。

 

新型コロナウイルス感染症による危機的状況から脱却・再生を図るべく、2020年5月に発足したJPASN(日本舞台芸術ネットワーク)の2025年度年次シンポジウム。今年度は舞台芸術業界が直面する制度的課題と私たちが築いてきた業界横断の取り組みについて、全2部で議論を深めました。

 

第1部は、AIと創作における著作権にまつわる課題をおさらいするとともに未来を語る回に。第2部は、JPASNの4つの事業を並べて紹介するはじめての機会とし、それらの連携と今後の可能性について議論する回になりました。オンライン配信の総視聴者数は375名、現地でも15名の方がご観覧くださいました。

 

この記事では、第2部「舞台芸術の未来をつくる4つの種~EPAD・『日本の演劇』未来プロジェクト・SOIL・SEEDが描く連携のかたち~」をレポートします。

 

【登壇者】(※五十音順)

進行:伊藤達哉(ゴーチ・ブラザーズ)

登壇:坂田厚子(EPAD)

竹内桃子(Booster)

野村善文(PortPort)

綿江彰禅(一般社団法人芸術と創造)

 

まずは進行を務めるJPASNの常任理事・伊藤達哉氏の声がけで、JPASNが推進する4つの業界横断事業、EPAD(=アーカイブ)、「日本の演劇」未来プロジェクト(=地域活性)、SOIL(=海外展開)、SEED(=人材育成)の事務局長による各事業の紹介からスタートしました。

 

 

〇EPAD、「日本の演劇」未来プロジェクト、SOIL、SEED。未来をつくる4つの事業

 

坂田厚子氏が紹介するのは「EPAD事業」です。

スライド「EPADとは」

 

 EPAD事業は2020年度、コロナ禍にあえぐ舞台芸術業界を映像を活用して支援できないかというところが始まりの事業で、まずは映像を収集しアーカイブすること、それらの権利処理をサポートし配信することから動きだしました。翌2021年度には海外発信がスタート。その後、恒久的に舞台芸術のアーカイブを残していくための事業として再スタートを切ったこの事業は、2024年度から「舞台芸術業界におけるデジタルアーカイブの自走への3年間」と位置づけ、舞台芸術業界が自律的に日本の舞台公演映像遺産を「次世代に残し、世界に伝える」持続可能な仕組みの構築を目指し、上映事業のほか、多言語情報保障のサポート、教育利活用の開発、アーキビストの育成なども行っています。

 

https://epad.jp/

 

 

竹内桃子氏が紹介するのは「「日本の演劇」未来プロジェクト事業」です。

スライド「事業の変遷」

 

「日本の演劇」未来プロジェクト(以下、ミラプロ)は公演事業を全国各地で行うことを補助する事業で、2021年度の「コロナ禍で公演を控えていたカンパニー支援」から始まり、【コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業→(新型コロナウイルスにより大きく傷んだ鑑賞環境に対する)文化芸術の需要回復→舞台芸術等総合支援事業(全国キャラバン)】と変化しながら公演事業を行って来ました。結果、2021年度からの5年間で、全40団体が、全国35都道府県で182作品1193公演を上演。約84万9600人を動員しました。参加団体は日本の最大大手から地域で活動する劇団までさまざまな規模で、ストレートプレイからミュージカル、歌舞伎、2.5次元、子供向け演目とバラエティに富んだラインナップで全国に作品を届けています。また関連事業として、業界を横断した繋がりや連携が生まれる活動、報告書『みらいジャーナル』の毎年度の発行、「舞台芸術おしごとナビ」などさまざまに展開。20年、30年先の未来を見据え、種まきを行っています。

 

https://www.mirai-pjt.jp/

 

 

野村善文氏が紹介するのは「SOIL事業」と「SEED事業」の2つの事業です。

 

「SOILもSEEDも共通して日本の舞台芸術をいかにして国際的な展開を支援していけるか、もしくはそれを推進できるかというところに重きを置いています」という前提を踏まえ、

 

スライド「SOILとは」

 

SOILは人材育成の文脈で3~5カ年かけてJPASNが取り組む長期的なプロジェクトです。日本の芸術文化の国際展開を推進していくために、演劇のプロデューサーの育成を中心に据えつつ、育成対象者だけでなく産業全体として国際展開を目指す新しい土壌を作っていくことを目標に掲げています。昨年2025年8月には1年間の準備期間を経てエディンバラとロンドンにて海外派遣プログラム「フェローシッププログラム」を実施。現在は2026年度の参加団体の募集も行っています。

 

https://soil-net.jp/

 

 

続いて「SEED事業」については、

 

スライド「SEED」

 

SEEDは、そのSOILで整えた土壌の先に送り出していく“種(SEED)”をどう作っていくかというプロジェクトです。国際的な視座を持ったクリエイターの人材育成を推し進めるために立ち上げられ、対象は大学生で、主にプロデューサー・演出家・劇作家の人材育成を目指します。日本から生まれる作品が海外に出ていくためには、どういった作品づくり、どういった技能が必要なのかを考えつつ、最終的にはカリキュラム的なカタチで提示できることを目指します。現在は、舞台芸術業界と大学の教育現場をどのように接続していけるかということも一つの課題として捉えています。

 

4つの事業の紹介を聞いた綿江彰禅氏は「各事業とも非常に意義があると感じました。頼もしくて、これを続けていくとどのような成果が出るだろうなということを、個人的にも楽しみにしています」と語りつつ、「でも逆に期待もしたくなっちゃう。これが今日のテーマになるかと思いますが、4事業それぞれすごくいいけれども、この裏側のところでもう少し大きい“ビッグピクチャー”といいますか、JPASNとしてどこに向かっていくのかというものが欲しくなる。そしてそれに対して4事業がどういう位置づけなのかが見たくなる。個別の“点”はすごく良いけれども、私は(それを結ぶ)“線”が見えなかった。それが今後の課題だと思います。よく『あとで振り返ると線になっていました』という言い方はありますが、漠然と線になることを期待して点を描くには、舞台芸術業界にはあまりにも時間がない。JPASNの事業は公的支援を前提にしています。最近、税収が増えたと言われていますが、中長期的には日本の人口は必ず減り、ということは税収も必ず減ります。税率を上げて税収を増やすという手はあるけれども、これ以上税金が上がるのは国民はもう限界じゃないかと思う。そうすると税収は減る。10年後とかには、公共事業の実施が目に見えて厳しくなってくる可能性があると考えています。だからこの10年が、我々の業界の構造変革をするために残された時間です。10年しかない。この中で個別事業を線にしていったり大きな絵にするためには、まずちゃんと先に大きな絵を描いておかないといけない。その絵を完成させるために、どういう線や点を描いていくかというのが本来の順番です。点を描いていって線になり絵になるのを待つ時間が我々には残されていない。それが大きな課題ではないかなと感じました」

 

 

〇自走化に挑戦できるJPASN

 

綿江氏の話を受けて話題は「自走化」へ。坂田氏は、現在のEPADの収益事業に繋がる取り組みやその波及を紹介しつつ、「EPADは、いただいた支援をベースに、自走化していくためにそれをどういう風に活用していけるかということが現在すごく大きなポイントになっている。その活用のためのノウハウをかなり貯めてきているので、それを他の事業と繋げていくことで自走化がしやすくなっていくと思っています。どうすればみなさんの収益力の強化や業界のより良い循環になっていくのかを今は必死に考えながら、今日お知恵をまた借りられたら」と話し、竹内氏も「「日本の演劇」未来プロジェクト関連事業のひとつである『舞台芸術おしごとナビ』は2023年から続けているオンラインでのリクルートイベントで、全国どこからでもアクセスでき、舞台芸術のお仕事のことがわかるというのが特徴です。年々出展企業数も増えています。今年は大阪と東京でリアルイベントも開催し、全国から足を運んでくれた学生さんもいらっしゃった。昨年度までは正会員のみでしたが、JPASN正会員ではない企業参加を目指して、今年度は賛助会員団体にも参加いただける枠を設けました。補助事業がなくてもこの事業を絶やさずに、次世代のプロデューサーやスタッフの育成、雇用につなげたいです。それが10年後、20年後にどうつながるかが鍵かと思います」と話します。

 

 

また野村氏は「事業をどういう風に持続可能にしていくかというところと合わせて、SOILの場合はしっかりと出口を設定しないといけないフェーズに入っている気がします。SOILもSEEDも“海外に作品を出していくこと”を目指していますが、演劇の海外展開における課題は、そのコストの高さにあると考えています。海外に作品を出すためには、“海外で公演を打つ”必要がありますが、海外公演は非常にコストがかかり、そもそも挑戦することへのリスクが大きい現状があります。なので、SOILでは、例えば作品を知ってもらうために、十数人連れて行って現地で公演を行うのではなく、プロデューサーが代表者として海外に出向き、業界関係者と繋がれる仕組みを作れれば、海外展開一歩目である関係構築のコストを下げることができると考え、実際に現地では非常に興味関心を示していただき、良い関係が生まれてきたと感じています。ただ一方で、冒頭話した海外公演のコスト自体は本質的な解決にはなっていないですし、そもそも海外で公演をできたとしてもコスト回収自体が難しい現状を念頭に、次のステップを戦略立てていく必要があると感じています」と話します。「個人的に感じている可能性は2つあります。1つは海外公演の事実が国内での実績や評価・集客につながること。海外展開の事実が、なにかしらの新たな国内機会を作ることができれば、海外に出ていくことも総合的に得になりうるのかなと感じます。もうひとつは、作品の展開の仕方が多様になっていくこと。今、海外展開というと海外での公演の実施が想起されますが、例えば共同制作・共同委嘱のように現地のパートナーと一緒に作品をつくることでコスト負担を分散していく。または、日本の団体がイギリスやアメリカの作品を買って日本で上演するように、作品を翻訳して海外に展開するとか、権利として作品を扱って、それをどう外に出していけるのかというところをもう一歩深く考える必要があるかなと思います。それを公的支援がある現在のタイミングで実験的にでも挑戦していく。そこでモデルケースを作っていくことができれば可能性はあるのかなと思っています」とアイデアを話しました。さらに自走化については、「フェローシップのプログラムは、今回、有償枠も設けています。いわゆる学校と同じで、学費がかかるか特待生枠かというイメージです。本来はかかるものを今は公的支援でまかなっているだけなので、今後も無償が当たり前になると苦しくなってくる。なのでこの有償枠の考え方もゆるやかに取り入れながら続けていきたいと思っています」。

 

 

それぞれの自走化への取り組みを聞いて綿江氏は、「文化庁をはじめ公的な助成・補助事業は採択先に“自走化”を求めるようになっています。だいたい、“自走化”の定義がされずにこの言葉が使われていることが多いですが、公的支援を受けず自己の収入のみで事業を運営するという定義だとしたら、かなりの無茶振りだと思っています。だけどことJPASNが行っている事業に限ってはできるんじゃないかなと思ったりもします。理由を詳しくお話します。なにが違うかというと、多くの公的支援は(支援の対象を)芸術分野や支援テーマ、実施主体の種類、主体の規模など様々な切り口で切り刻んで、支援事業を設計します。これは当然で、そうしないと予算が取りづらいし、細かくしていったほうが支援スキームも設計しやすいのです。でも、そうすると、同時にそれが分野や主体の垣根を作り、また、同時にその先にあるマーケットも細分化することになってしまうわけです。ただですら、大きくない芸術マーケットをさらに細分化してしまう。その細分化されたなかでそれなりの収入をあげて“自走化”するというのはかなり難しい。ただ、JPASNはその構造にはあまり陥っていない。様々な芸術分野、規模の団体が所属しています。団体の種類も色々です。そういう意味では、自走化はJPASNだからチャレンジできる可能性があると思います」と背中を押します。

 

 

〇活気ある意見交換の終わりに

 

綿江氏の「文化芸術のビッグピクチャーの話をしましたけど、多分それを描くならJPASNなんだと思います。だから、ここ10年でやらなきゃいけないのはこれだ、というのを言っていかなきゃいけない」という声かけに対し、伊藤氏が客席の参加者にも意見を求めると「SEED事業もそうですが、大学生を育てても、この業界に魅力がなければ入ってこないと思う。次の未来を作ることができる人が業界に入ってくるかどうか、今いる人たちがこの業界を変えていけるかどうかにかかってきているかなと思います。コロナ禍を経て、舞台芸術業界に唯一良かったことがあるなら、JPASNができたこと。今まで何度言ってもできなかったことが一気に動いている。チャンスと思ってがんばるしかないと思っている」という声。それを聞いた坂田氏は「やはり人材育成、そして創客。それはここ10年、20年のけっこう重要な課題なんだなと思います。それを各事業が角度を変えて取り組んでいる。ここをキーにお互いもう少し噛み合うと、また新しい可能性が生めるのかなという気がしました」と未来を見据えます。

 

また別の参加者からは「海外のフェスティバルやマーケットに行くと“インダストリー(産業)”という言い方をするのですが、『ここが自分たちの生きていく場なんだ』という自覚がすごくある。やっぱりこの業界って好きな人がやっているから『ちょっと我慢してでも報われなくてもやってる』みたいなところがあった。でも『ここで生きていく、そしてサクセスストーリーがちゃんと生まれる』という――それは経済的だけじゃなくて精神的なことでもいいんですけど、ここでなにか掴むことができる業界になる必要があると常々感じています。今日、紹介していただいたセクションはいずれもその可能性がある。ここでなにか若い人がサクセスストーリーを作っていけるコンテクストを生み出せるんじゃないかなと思いました」という声も。それに対し伊藤氏は「どう産業化していくかということは考えています。そもそもコロナ禍で文化庁に問われたのは“業(ぎょう)”としてどうなんですかということでした。“業”としての認識が業界側にもなかったかもしれない、と思ったことを、お話をうかがいながら思い出しました」と明かしました。

 

さらに別の参加者からの「私は教育機関にも関わっているのですが、いまはなかなか演劇教育で難しい部分があるなと思っています。夢を見られない若者たちと、国が圧倒的に貧しくなっているだろうという環境で、舞台芸術に進路を定める人は演劇の学校の中でもかなり少なくなっている印象がある。こういうふうに教育機関と連携もとりながら、やっぱり夢を見せないといけないんだよなというのは、教育をやっている身としても思う。次世代のつくり手の人たちは成功体験があまりない。続けていくことが苦しい時代でもある。JPASNの課題『若い会員が少ない』ということに対しては、こういう風に議論してくれていることが、ある種の希望だったりもするけれど、この議論に接する機会がそもそも若いつくり手は少ない。この部分はちょっと課題だなと思っている。いま若手最前線の人たちがどういう思いで創作しているかをちゃんと拾い上げる機会があるといいなと思いました」というコメントには、竹内氏が「若い会員が少ないという件に関して、大阪に住んで大阪で演劇をやっている身としては、地域のカンパニーもまだまだ少ないと思いました。おしごとナビをやってみて、地方にもたくさん舞台芸術業界を目指したい人はいるとわかりました。だけどやっぱり仕事が東京に一極集中している。東京に行かなきゃいけないという時点で諦めている人も多いのではと思います。地域で活動していく基盤をどう作るのか。舞台芸術業界で仕事をしたいから東京に行くのではなくて、自分の好きな場所でどうやって活動を続けていけるかも今後の課題になっていくかなと思いました」と実感を語ります。

 

 

これまでの話を受け綿江氏は「厳しいことを言いますが、我々業界関係者が夢を見せて、それに呼応して入ってくるような人はもうたぶん望まれない」とズバリ。「演劇に限らずいま日本はどの産業もそんなに夢ないです。今の若い人たちが作っていく。だからロールモデルを待ってるような人間はこっちからお断りです。おしごとナビのいいところは、この業界のいいところを見せるだけじゃなくて、悪いところも十分知って、他の産業と比較検討してもらえること。だまして連れてくるんじゃない。それを、若い人も含めてパラダイムチェンジをしていく中で作っていこうよという感じなのかなと思いました」と語りました。

 

最後に野村氏が「最後の『やるしかない』というところに来ている。逃げ場はもうない。実(じつ)を作っていくしかない。がんばりますし、がんばろうねと思いました」と語りかけると、並ぶ坂田氏、竹内氏もうなずきます。そして綿江氏は「やりましょう。業界変革はJPASNでできなかったら多分できない。このタイミングでできなかったら文化芸術は沈みゆくだけです。最後のチャンスかなと思います」と強い言葉でシンポジウムを締めくくりました。

 

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