インタビュー | 株式会社スーパーエキセントリックシアター 鈴木庸子さん

俳優・渡辺哲によるひとり芝居『カクエイはかく語りき』。2006年の初演、2018年の再演を経て、モデルである元首相・田中角栄氏ゆかりの新潟県柏崎市にて2日間の上演を実施。長年にわたり株式会社スーパーエキセントリックシアターでの公演を手がけ、本公演を取り仕切った鈴木庸子氏に、人口7.5万人の柏崎市での公演についてお話を伺った。

 

取材日:2025年10月20日

取材・文:上村由紀子

一桁しか売れなかったチケット

 

――対象公演『カクエイはかく語りき』はタイトル通り、元首相の田中角栄氏をモデルとした渡辺哲さんのひとり芝居です。角栄氏のお膝元、新潟県柏崎市での公演はいかがでしたか?

 

とにかくお客さまがアツかったです。(渡辺)哲さんは素晴らしい俳優ですが、たとえば人気アイドルのように全国どこの劇場でもファンだけで満員にできるかというとそれは難しく、この公演も券売面でかなり苦戦するのでは、と考えていました。実際、最初にチケットを売り出したときは一桁の枚数しか売れず、このままでは興行としての厳しさに加え、哲さんの気持ちがしぼんでしまうのではないかと、製作者としてあせりのようなものもありました。

――そこからどう巻き返していったのでしょう。

とくに大きな支えとなったのが柏崎市文化会館アルフォーレ担当者の方の熱意です。30代くらいの方だと思うのですが、公演会場を探すなかでお電話したときから、非常にこの舞台に興味を持ちおもしろがってくれました。アルフォーレでは通常、音楽がメインで、演劇の公演は久しぶりだったのですが、面白い企画なので会館側でできるだけの協力をするという申し出をいただき、私たちのほうで助成を受け(資金面の)リスクも負うということで、柏崎での公演が実施できる運びとなりました。

広報については、ターゲットとなる観客層から考えてSNSなどのデジタル系ではなく、地元のラジオに加え、新聞、タウン誌などの紙媒体を中心に展開しました。また、ポスターやチラシなども公演規模に比べると多めに作ったと思います。アルフォーレの公演会場であるマルチホールに舞台を組むと、客席は大体70席から80席程度になりますが、一桁台の売り上げからスタートしたチケットの販売数も次第に伸びていき、初日直前の段階で満席に近い状態までもっていくこともできました。

◯9割超えのアンケート回収率

 

――観客の年齢層と反響なども教えてください。

 

田中角栄さんをモデルにしていることもあり、かなり高齢の方が多いと予想していましたが、実際には50代から60代くらいの方がたくさんご来場くださったと思います。さらに、ご家族とご一緒の10代の方や20代のお客さまもいらっしゃいましたし、柏崎市内だけでなく、他の市町村や県外から来てくださった方が多くいたこともアンケートを拝見してわかりました。

反響で特に驚いたのがお客さまからのアンケート回収率が9割を超えたことです。演劇公演のアンケート記入に慣れていらっしゃらない方がほとんどだろうと、感想を書く欄はひとつに絞り、チェックシート方式の用紙を作成したのですが、多くの方がたくさん感想も書いてくださいました。その文面からもお客さまの熱量が伝わりましたし、終演後の哲さんに「角栄さんのことをお芝居にしてくれてありがとう」と伝えている方もいて、この作品に携わってよかった、と心から思いました。相当、カロリーも使いましたが(笑)。

――今回の助成をどの部分で活用しましたか?

宣伝広報用のポスターを70枚、チラシを7,000枚作った費用と、交通費や宿泊費が当初の予想よりかさんでしまいましたので、その部分の補填で使わせていただき、非常に助かりました。

◯チケット代高騰と将来の展望

 

――現在、演劇界共通の悩みと課題がチケット料金の高騰だと思うのですが、製作者としての考えをお聞かせいただけますか。

 

これは本当に切実な問題で、『カクエイはかく語りき』の公演を実施するにあたり、作成してもらった見積もりを最初に確認したときは、たった1年で各経費がここまで上昇したのかと、とても驚きました。資材費もですが、人件費も少し前と比べ、びっくりするくらいの上げ幅になっていると思います。今回は各所と折衝を重ね、ある程度までは下げていただいたのですが、それでも柏崎公演に関しては赤字でした。お客さま視点ですと、主催がチケット代を上げているように映るかもしれませんが、実際は、チケットの値上げ分は諸経費になりますので、プロデューサーや製作側に(利益として)降りてこないことがほとんどです。この状況が続けば、演劇を幅広い層の方に観ていただくことが困難になるのではないかと危惧しています。

――今後、製作者として挑戦したいことがありましたら教えてください。

 

私が仕事をしていますSET(劇団スーパー・エキセントリック・シアター)は品川区に拠点があるのですが、その関係で「5080問題」(80代の親が50代の子どもを経済的・社会的に支えている状況)などについて品川区の方たちとお話をする機会が増えました。自宅のごみ屋敷化や大人の引きこもりに加え、子どもたちの不登校など深刻な事態も起きていると実感しています。そういった状況があるなか、家から出ることが難しい人たちが一歩前に踏み出すためのツールとして演劇を使えないかと思い、今年から動くつもりです。まず、比較的外に出ることのハードルが低い方を対象に劇場に来てもらい、お芝居を観ていただいたり、シアターゲームで他者と交流してもらうことで、ゼロがイチになるような気もしています。これまで26年間、SETの公演すべてに関わってきましたが、定年を迎え契約社員になった今、演劇を使った社会貢献を通し、この輪を広げていければと考えています。


株式会社スーパーエキセントリックシアター

制作

鈴木庸子(すずき・ようこ)
1997年劇団スーパー・エキセントリック・シアターにアルバイトとして加入。その後劇団が株式会社を設立と同時に入社。以来劇団主催のすべての公演に携わる。現在は、公演活動の他演劇を利用した社会貢献活動にも力を入れている。


 

「日本の演劇」未来プロジェクト 参加公演

『カクエイはかく語りき』

2025年8月23日~24日 新潟県 柏崎市文化会館アルフォーレマルチホール

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