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「JPASN年次シンポジウム2025」が2026年1月30日に東京・銀座松竹スクエアで開催されました。
新型コロナウイルス感染症による危機的状況から脱却・再生を図るべく、2020年5月に発足したJPASN(日本舞台芸術ネットワーク)の2025年度年次シンポジウム。今年度は舞台芸術業界が直面する制度的課題と私たちが築いてきた業界横断の取り組みについて、全2部で議論を深めました。
第1部は、AIと創作における著作権にまつわる課題をおさらいするとともに未来を語る回に。第2部は、JPASNの4つの事業を並べて紹介するはじめての機会とし、それらの連携と今後の可能性について議論する回になりました。オンライン配信の総視聴者数は375名、現地でも15名の方がご観覧くださいました。
この記事では、第1部「今さら聞けない!舞台芸術と音楽の権利処理~AI音源の普及・配信の増加・レコード演奏権の導入、権利の時代を生き抜くために~」をレポートします。
【登壇者】(※五十音順)
進行:福井健策(骨董通り法律事務所)
登壇:坂本もも(ロロ/範宙遊泳)
高本彩恵(劇団あはひ)
松田和彦(東宝)
冒頭では、進行を務めるJPASNの常任理事/政策部会長を務める福井氏より、舞台芸術の創作現場において欠かせない存在である「音楽」を巡る環境の変化の解説がありました。今回の議題に関わる変化は以下。
◎公演の配信が増加したこと
◎AIの生成音源が劇伴では実用レベルに達したこと
そしてもう1点、
◎現在、「レコード演奏権・伝達権」という音源にまつわる新しい権利の導入も秒読み段階であること
これにより、「“ライブ”でできた舞台を配信でそのまま流していいのか」「AIの音源はどんなプロンプトで作れば安全なのか」「権利処理はどうするのか」といった権利にまつわる知識がますます重要になるという流れがあります。
そこでまずは、弁護士である福井氏から、現状の「権利の基本」のレクチャーがありました。

「〇」がついているのは「権利が発生するもの」です。「著作権」はすべてに対して発生します。また、俳優やダンサーの実演やCDなどの音源に関しても「著作隣接権」という権利があります。

権利の流れを知るためにまず理解しておきたいのは、音楽業界と権利の全体像です。舞台芸術業界でもおなじみ「JASRAC」という集中管理団体が著作権の譲渡を受けて管理しているので、現状、大多数の楽曲はここに許可をもらうと配信などが可能になります。

ただし個別交渉が必要になる楽曲もあります。その代表が特定外国曲のグランドライツです。ミュージカルの楽曲などは、劇場やプロデューサーの独占許諾により他の団体が舞台で演奏できない、個別管理が主流です。そうなるとJASRACでも許可できないので、個別交渉が必要になり、時に高額な使用料が必要になります。
この中で、今回特に注目してほしいのが、最初のスライド「まずはここから:著作権・著作隣接権」で黄色い「×」印の部分です。従来は、例えば劇場でCDを流すのは自由、つまり権利が発生しない状態でした。しかし現在ここに新しい権利を作ろうという動きが生まれている。これが「レコード演奏権・伝達権」です。これは世界142か国で既に導入されているものでもあります。
舞台芸術業界にまつわるものでいえば、演劇やダンス、客入れのBGMの音源まで対象となります(一般的に言えば、カフェでのBGMなども対象になるそうです)。しかし、BGMで利用した全ての曲の許可をレコードレーベルで取るというのは双方にとって現実的でないため、今まで通り「許可なく」使える予定です。【ただし決められた使用料を払う。その使用料は利用者と協議をしたうえで決める】という仕組みが現在考えられているものです。
いま考えられている懸念点としては、「徴収額、徴収方法などを考えると、適切な仕組みを構築しなければ音楽の利用萎縮につながるのではないか」や「個別の各主催団体がすべての利用音源について申請して支払いをするというのはどう考えても大変で、徴収と分配のコストのほうがかかってしまうのではないか」というものが挙がっています。また、費用サンプルで店舗BGM用として年間6,000円が算出されていますが、これは最低ラインのもので、演劇の現場ではかなりの金額になることが予想されています。
つまり許諾は不要でも申告が必要で支払いが必要になる。場合によってはそれで断念するというケースも出てきそうです。

昨年、JPASNでは緊急のタスクフォースを設置し、文化庁に対して理解を示しつつも舞台芸術の実情を伝えたり、それについての要望を意見書で提出したりしています。このタスクフォースの中心メンバーとして対応してこられたのが、松田和彦氏(東宝)です。松田氏は東宝でさまざまな舞台作品の円盤化、配信も手掛けてこられたほか、公益社団法人日本演劇協会の理事も務め、そこではJASRACとの交渉委員を25年近くやってこられました。
松田氏は「レコード演奏権・伝達権の話を聞いて最初に思ったのは、大きな話のとばっちりが我々に来る、というものでした」と正直な思いを吐露しながらも、タスクフォースの設置から今日までの経緯を紹介。特に文化庁に提出した意見については「プラットフォームや使用者団体が権利者団体とまとめて権利処理をするのが“元栓処理”。個々の使用者が権利者団体に支払っていくというのが“蛇口処理”と言うそうですが、歴史があり、手間をかけているJASRACでさえ、膨大な蛇口処理を完全にはできていない。それなのに、膨大な数の使用者から新しい権利料の徴収が、公平性を損なわずにできるのかということは一番目に書きました。もうひとつは小規模団体にはいろんな意味で費用も手間も大変。そこをちゃんと考えてくださいということ。また準備段階の複製という難しい問題も当然クリアになりますよねということ、段階的導入をしないといけないということも伝えました」と報告。
そのうえで、「文化審議会の理屈を改めて聞いてみると、いま日本のアーティストが海外でヒット曲を出し原盤も売れている。すると原盤を使ったいろんなイベントができる。しかし現在の権利だとまったくこちらにお金が入らない。日本の音楽がこれから世界に出ていくために、この権利をまず日本で作って海外からお金をもらえるようにするのが目的と強調されていた。そこは理解できる」と一定の理解も示しつつ、「でもそこで巻き込まれるのがとばっちり」と苦笑い。

ここからはクロストークです。
第1部の登壇者で、「ロロ」と「範宙遊泳」という2つの劇団に関わり国内外での上演や配信を行う坂本もも氏(ロロ/範宙遊泳)、「劇団あはひ」で制作を担当し小劇場を中心に活動する高本彩恵氏(劇団あはひ)、帝国劇場をはじめとした大規模な劇場でミュージカルの制作に携わってきた松田和彦氏(東宝)という、立場の違う3人に著作権にまつわる現状を聞いていきます。
3人の中で最も若い世代となる高本氏は「劇団あはひでは、音楽は同世代のアーティストと作ることが基本的に多いです。作品のために作っているので原盤処理などはありません。また配信はEPADに依頼しているので、こちらでなにかやらなければいけないことはありませんでした。ただ客入れ曲はこだわって既存曲を使い、JASRACに申請したことがあります。配信ではそこを切りました」

配信経験豊富な坂本氏は「範宙遊泳は積極的に配信をする団体なので、活動初期から音楽の権利には気を付けています。楽曲はなるべく配信を見据えて音楽家と組んで作るようにしていますし、どうしても既存の曲を使いたい時はなるべくJASRACで済むように日本の曲にしてもらい、なるべく海外楽曲は使わないように意識してきました。それでもどうしても作家が『この曲でいきたい』と言った時はだいぶ議論します。結果それを使うことになったら、うちも配信はEPADさんに申請することが多いので権利処理まで行ってくださるのですが、権利が取れない楽曲は差し替えることになります。なので権利が取れないだろうという予測のもと、上演後にそのシーンを“BGMなし”でもう一回上演してもらいました。それを追加撮影して、EPADさんに納品する配信分の映像はBGMなしバージョンにすることがありました(BGMを無音化して配信すると、台詞も消えてしまうので)。それは手間もかかるし俳優たちの負担になると思ったのですが、俳優のほうから『やるよ』と言ってくれて実現したことです。俳優たちも配信に前向きなのでそう提案してくれて、新しい試みだったなと思います」

松田氏は「配信に関して話すと、うちは海外に権利元があるミュージカルの場合は、基本的には、JASRACは通さずにグランドライツ(前出)処理で配信は行います。お客様の声で多いのは、『アーカイブをつけてください』というものですが、アーカイブも『どうぞ』と言ってくれるグランドライツホルダーもあるし、そこに抵抗があるところもあります。また東宝はミュージカルコンサートも開催しますが、コンサート企画はシンクロ権(映像で音楽を使う時は個別に交渉をしなければいけない)の問題が出てきます。アーカイブには基本的にシンクロ権が及ぶことになるので、コンサートで歌うすべての曲でシンクロ権を一つひとつ交渉していくというのは事実上不可能なんです。でもライブ一度だけの配信であればそれはしなくていいんですね。お客様は『(配信できるのだから)アーカイブもやってほしい』とおっしゃるんですけど、シンクロ権をクリアするのが難しい。それで一回にならざるを得ない」と解説。さらに配信の課題に一歩踏み込み「配信の他の問題に、“ワンチャンス主義”もあります。出演者側が映像を撮られることに同意すれば、他のすべての利用ができるというのがワンチャンス主義なのですが、映画やテレビでは基本的に全員がそれに了解しています(よって映像配信などの二次利用がその都度事務所の許可を取らずにできる)。でも演劇の場合、出演交渉時に二次利用の話まで持ち出しづらい。でも配信をするには全員のイエスが必要で、一人でもノーの人がいると、配信自体できないわけです。俳優さん側へのお願いの仕方をどうするのが良いのか、ギャラの配分も含め現状“標準”が確立していない状態だというのを、どう落ち着かせていくのかが悩みの種です」と話します。
この話を踏まえ、坂本氏、高本氏ともに「既存曲はあまり使わない」と話していたことに話が及ぶと高本氏は「ソフトがあるので自分たちでBGMを作ってみることも割としやすい。手軽にできるので、むしろそこもクリエイションとしてやるという団体が多い気がする」と生の声を伝えます。また坂本氏は「ロロに関しては、絶対に既成曲を使う公演がある。その時は配信を諦めている」と話すと、松田氏は「これから既成曲を気軽に使えないということが、旧作の再演、新作の中身にネガティブな影響が生じていくと思う。ある歌手の既存音源を流すことでその時代を表現できるという場合も、悩みどころになってくる」と語りました。
また高本氏から福井氏に「まだ経験はないのですが、AIで生成する音楽を使うこともこれからあると思っています。AIを通したときに何を気をつけたらいいかとかが漠然としていて不安なところがあります」と重要な質問が。福井氏は「これには“法的な課題”と“社会の受け止め方”という課題があると思います。でもここでは法的な課題のみについて話します」と前置きをし、「まずあるのは、AIで作った曲が既存曲とそっくりになって(著作権の)侵害だと言われてしまうリスク。これはプロンプトの入れ方で気をつけなければいけません。ある程度信頼感のある音楽生成AIを利用することを前提に話しますが、プロンプトに既存の曲名とか既存の歌詞とかを入れると当然似たものができる可能性が高まる。きっとこれからは、(配信用の)音楽の差し替え手段のひとつとして、AIで『〇〇風の曲を作って』ということが増えるかもしれないですが、これは気を付けたほうがいいです。AIは現状そう言われると、単に〇〇風を超えてむしろそっくりなものを作りがちです。そうすると著作権侵害になりますよね。もうひとつは、既存曲と似ていないものができたとして、『純然と生成AIに作らせたものには著作権はない』というのが世界的な通説です。だからそれはみんなが自由に使えちゃうということでもあります。それは気にしないよという団体ならいいんだけれども、『うちのカンパニーで作った曲が、著作権がなくてみんなが自由に使えちゃうというのはイヤだな』という場合は、人間が共同作業をしなくちゃいけない。共同作業なら人間の著作権が生まれますから。例えば、プロンプトの段階で十分に具体的である意味独創的であれば、プロンプトだけでも著作権が生まれる可能性があります。ただし、単に何回も作らせたらいい曲ができましたとか、たくさん出てきた中でいいものを選んだ審美眼、では著作権は生まれない。あくまでもプロンプトの中に歌詞とか曲調とか旋律についてかなり具体的な指示が入っていることが条件です。もちろん美術でいうところの“レタッチ”みたいなことをやってもいい。ある程度AIに作らせて、それに人間が手を加えて、さらにAIにかける。こうやるとかなり共同作業になる」とコツを解説しました。
ーー「AIが生成した曲が実は既存の曲とかなり似ていたけれども、それをオリジナルだと思い込んでしまい、無自覚に使用し、後に侵害していることがわかる、ということはどうやって防いだらいいでしょうか?」
福井「現在、多くの団体がAIガイドライン、AIポリシーを作っているのですが、僕がその中に入れたほうがいいですよと言っているのが、『非常時対応のマニュアル』。大体は、『似ている。侵害だ』とクレームが来ることからスタートします。その時に何より大事なのは事実確認です。事実確認する前に慌てて謝ったり否定したりしちゃうのは避けたほうがいいです。どんなに緊急でも落ち着いて、つくった担当者はその似ていると言われる曲を知っていたか、どんなプロンプトで作ったか、実際に聞き比べてどのくらい似ているかなどを確認します。そうすると、偶然なのか狙ってやったのか、そっくりなのかムードが似ているのか、判断がつく。できれば自分一人で判断しないで詳しい人の意見も聞く。急いで対応しなければいけないことだけど、でもここまではやる。それから初期対応を決める。本当は、できれば避難訓練みたいに机上で対応を一回やっておくといいです。いざという時は頭が真っ白になるので。そしてそういう時のためにもプロンプトを保存しておくことは重要です。プロンプトの保存って時にけっこう大変なんですけど、そうすることでその人を守ることになる」
ーー「ひと口にAIと言っても、一般に普及している対話型のものと業務用のもので一緒にしていいのでしょうか?」
福井「今日話したAIガイドラインやAIポリシーということで言うと、どちらも必要だという点では変わらないです。そもそもAIガイドライン、AIポリシーの冒頭にあるのは、『あなたが使うAIを知りましょう』ということです。それはどんなタイプのAIで、どんなデータを学習しているのか。例えばこちらが入力したプロンプトも学習しちゃうのか、フィルタリング機能のように、出力に対してどういった安全措置を持っているのか。そういうことですね。利用規約で、そのAIが生成物のどんな利用をOKにしてNGにしているのかも読みましょう。そういうことです」
ここでタイムオーバーとなり、残念ながら各々のクロージングコメントは省略となりましたが、最後に松田氏から「現状、一般の人には今日の解説のようなことは伝わっていない。でもそのままだと『ただ金額がかかります』ということになってしまう。そこをいかに周知するかは大きな課題です」、福井氏も「レコード演奏権・伝達権が仮に今期の通常国会で導入されるにしても、運用開始まで3年という期間は確保しています。それは言ってしまえば“周知期間”となる。いまは恐らく驚くほど知られていないので、正しく理解してもらい、意義をわかってもらい、正しく恐れてもらうということを、JPASNも課題としてやっていかないといけないし、日本全体が課題として学んでいかないといけない。【音楽の権利2.0】が始まる。そんな3年間になるだろうなと思います。みなさんと一緒にこの変化をうまく乗り切っていきたい。そんなことを考える時間になりました」と語り、第1部は幕を閉じました。
